

プロフィール:大阪府豊中市出身。兵庫県西宮市の職員をしながら、栗の加工や保存技術の研究に携わる知人を手伝う経験を通して、自分も作り手になりたいと考えるようになる。現在は、地域おこし協力隊として、くりの栽培技術習得や丹波くりブランドの認知度を向上するための取り組みに従事。
栗の栽培技術を後世に残し、新たな京丹波町の栗加工品を世に出すために邁進する山田裕貴さん
いつも物静かな佇まいの山田さんですが、お話を聞けば聞くほど栗に対する情熱と行動力に感動します。京丹波町の栗の将来を大きく動かしていく存在になるであろう山田さん、京丹波町で今日も栗の栽培と加工に邁進しています。
【移住のきっかけ&地域おこし協力隊になった理由】
市役所の職員をしている時に、ボランティアで栗の加工のお手伝いをしていて、栗の生産量が減っているということをよく聞いていました。栗が減っていけば加工もできなくなると思って栗の栽培についても興味があったのですが、ちょうどその頃、仕事の関係でつながりのあった方に宮城の農家さんをご紹介いただきました。2町ほどの農地をお持ちで、農地を引き継いでくれる人を探しておられました。その方はブルーベリー栽培をされていたので、ブルーベリー栽培で生計をたてつつ、空いているところで栗の栽培をしようと思って、市役所を辞めて宮城に行くことを決めました。
ただ、宮城に行ったものの、その方も私も栗栽培は初心者なので、栗のことを知らない者同士で栗を栽培することは難しいなぁと・・・やっぱり栗のことを知っている人のいるところに行かなきゃいけない!となりました。
そんな折、京丹波町の丹波農園さんから京丹波町で焼き栗やっているから一度見てみたら、と言っていただきました。そのときに、京丹波町には山内さんというすごい栗栽培のマイスターがいるということを教えていただきました。そして山内さんといろいろ話している中で、京丹波町に来たら栽培の技術を教えていただけるということになり移住を決めました。
最初は新規就農として考えていたのですが、家探しで移住相談窓口に伺ったところ「今、こんなのを募集していますよ」と地域おこし協力隊のことを聞いたんです。いきなり新規就農しても栗が安定して収穫できるまで5年以上かかるので、それまでの生計のことを考えて、地域おこし協力隊があるなら、ぜひ活用したいなと思いました。
【栗にのめり込んだ理由】
たまたま栗の皮むきを手伝ってほしいとか、栗の保存の研究を一緒にしようとか、流されるままにきたんですけど(笑)、岐阜県恵那市に恵那川上屋さんという栗のお菓子屋さんがあるのですが、そこの存在は大きいかもしれません。
恵那川上屋さんは、店舗数も相当かまえていらっしゃって、お客さんも多くて、栗だけでそこまでできるんだっていうことに衝撃を受けました。また、「日本人は栗が好きなんだ」ということもわかりました。恵那川上屋の社長さんは「いろんなことに手を出すよりも、何か1つを極めた方がいい」ということをおしゃっていて、私も、いろんなことができる器用な人間ではないですし、職人として何か1つのことを極めている人ってすごいなと常々思っていたので、説得力がありました。
昔、恵那では栗農家さんの数も減少していて、栗栽培に対する農家さんのやる気も落ちていた中で、恵那川上屋の社長さんは「自分たちが全部の栗を買い取り、値段を下げたりもしないので、その代わり、しっかり選別された一定基準の栗を栽培してください」と農家さん達と真摯に向き合い、これが農家さん達にとっても、地域として責任をもって一定基準の栗を栽培するんだというモチベーションにつながったと言います。最終的には、恵那の栗というブランド化に成功し、地域おこしにもつながっている。こういうのを見て、栗の可能性に気がついたし、これまで以上に栗をやっていきたいと強く思ったきっかけにもなりました。
【地域おこし協力隊として1年を経験しての感想】
1年目は、山内さんや丹波農園のみなさんと一緒に作業をさせていただくことがほとんどだったんですけど、改めてすぐに栗の栽培技術を習得できるものではないな、という厳しさを感じています。みなさんが作業をする様子を見ていると、簡単そうにやっておられるのですが、実際に私がやるとなるとやはりどの作業も相当大変で・・・
山内さんの農園では数百本の栗の木を栽培されていますが、山内さんは小さいきときからずっと栗の栽培をされてきたというこれまでの長い経験があって、素晴らしい栗を栽培されています。たった1年しか携わっていない私が、今後どこまでできるのかという現実を突きつけられている感じはあります。
今、新しい自分達の農園を始めたりもしているんですけど、こちらも結構大変です。お金も労力もかかるんだなってことを痛感しています。今は地域おこし協力隊として収入があるのでよいのですが、これがいきなり新規就農で始めていたら大変だったと思います。
もう少し大きな課題としては、気候変動とか温暖化とか、栗農家さんも栗が取れなくなってきていると感じていたり、これだけ作業が大変な中で生産量も減っている現状なのだから、栗農家さんが減ってしまうのも無理ないとも思います。せっかく作っても良い栗はどんどん町外に出ていってしまうし、京丹波町内で1年を通して手に入る栗商品もないですし、「栗の町」と謳っていながら、まだまだ栗にそまっている町ではないかも、と思うところもあります。

【栗の生産量が減っている原因は何でしょう?】
まずは栗農家の高齢化。後継者がいなくて放置されていたり、新しく入ってきて栗栽培をしたいという人もあまりいないですし・・・
あと、獣害もありますね。サル、鹿、いのししとか。獣害対策が大変になってきています。地域によっては地域ごとで対策をされているみたいです。サル出没情報がライングループで共有されたりしているそうです。
【栗栽培の維持発展のために必要なことは?】
新規で栗をやりたい人がもっと移住しやすいと良いのかもしれないと思います。
私は、山内さんが助けてくれて、農地を貸してくれる人を紹介してくれたり、地域おこし協力隊なので役場の農林振興課の皆さんにもいろいろ聞いたりできるので恵まれています。
何もつながりなく京丹波町で栗栽培をやろうと思っても、どこに住む、農地どうする、補助金はどんなものがある等々、調べないといけないことが多く、情報へのアクセスが難しい気がします。もう少し、栗栽培をやってくれる人向けの受け入れ体制や情報発信があると入っていきやすいのかと思います。
【1週間のスケジュールは?】
平日は、地域おこし協力隊として、栗にかかわる様々なことをしています。栽培だけでなく、京丹波栗工房という加工所があるので、そこで加工を勉強させてもらったりもしています。そこでは栗のペーストを作っているのですが、それを使った栗商品が少しずつできています。今は、京都のブルワリーが栗のビールを醸造してくれています。土日は、それを道の駅「味夢の里」で販促しているので、私も京丹波栗のPRを兼ねてお手伝いしたりしています。京丹波町の栗商品がどんどん増えるといいなと思っています。
【休みなしの毎日ですが、リラックス方法は?】
日吉温泉に行ったりしています。もう少し足を延ばして、京都桂の「仁左衛門の湯」とかも。味夢の里で販促が終わった後など、温泉でリラックスしています。
【地域おこし協力隊としての残り2年で目指すゴール、終わった後の方向性は?】
昨年お借りした農地で栗の苗木を植えましたが、あと2年ではまだ収穫できないので、まずはその栽培を続けていくこと。そして、今は仕入れた栗を加工していますが、自分で栽培した栗を使った加工品を販売していきたいと思っています。販売するショップもあるといいなと思っています。
あとは、もう少し“繋がり作り”をしていきたいと思います。他の栗農家さん達とつながって、新規で栗栽培をしようとされる方にいろいろと聞かれたときに答えられるように多くのことを習得したいです。私がわからなくても、この人に聞いたらいいとか、一緒にやりましょうとか、新しく入ってきた人を、適切な人につなげたりできたらいいと思います。
【10年後の理想の姿】
今自分で栽培している農園では70本の苗木が植わっていて、すべてが活着するわけではなく、3~5年で枯れたりするそうです。「栗は枯れるもの」と言われたりもするので、今後、どれくらい育つのか見守っていきたいです。
そして、自分の栗が収穫できているといいですねー。
正直、私が山内さんのような立派な栗を大きな規模で栽培するのは難しいと思っています。でも、私たちが借りている面積はそれほど大きくありませんが、その横の農地で別の新しい人が栗栽培をやるという話も進んでいます。1人1人が栽培できる面積は小さいかもしれないけれど、そういう仲間が増えていったらいいなと思います。
実際、農地がばらばらだと効率が悪いですけど、まとまった農地で各々が栽培できる範囲で栽培し、栽培用の機械とかも共同で使う、そんな栗仲間を増やしたいです。その近くに加工所もあったりすると、まとまった量を加工用に使えるし、京丹波町の栗の拠点として観光客が気軽に立ち寄れる感じになっていたらいいなと思います。
まだ、構想段階ですが、今年の秋からコンテナを使った栗の青空カフェをできないかという話もあって、そういう小さいものから、いずれはみんなが来て栗を楽しむことができる場所ができたらいいなと思います。
京丹波町の栗を使って京丹波町で加工されたものが、年間を通して町内で食べられるし、そこから外にも広がっていくという感じで、京丹波町内で販売しながら京阪神でも販売している、というのが理想ですね。
そのためにも、栗がないと・・・どうしても栽培はまだ始めたばかりなので、加工の方に目がいってしまうのですが、山内さんからも「栗がないと加工もできないよ」と言われています。確かにその通りで、栽培もがんばっていかないといけないと思っています。
もう一つ、栗の木のオーナーズグラブみたいなものも構想中です。栽培する上での資金面では助かるし、また、京丹波町に来てもらう良いきっかけにもなると思います。
【京丹波町で好きなところ】
山内さんの栗園は本当にきれいです。上からみると、ばぁ~っと一面に栗の木が並んでいるので感動します。作業の休憩時間に眺めたりすると癒されます。この栗園を眺めながら、モンブランを食べられるカフェとかがあるといいのにと思ったりしています。
あと、道の駅「和」(インタビューは和知の道の駅「なごみ」で実施しました)もいいですよね。景色が最高です。